永田町から漂う世襲の〝腐臭〟

2018/07/10

[WorldNavi 2018 WINTER 寸鉄]

 

  昨今、私は京都に行く機会が多い。東山に雰囲気のいい定宿ができたからだ。いうまでもなく、京都は史跡の宝庫である。私は訪ねるたびに、特に歴史に光芒を放って消えていった人々を偲び、京の街をさまよう。

 必ず立ち寄るのは、坂本龍馬遭難の地、近江屋跡だ。維新を目前にして暗殺された彼の悲運が胸に迫り、いつも慟哭せんばかりの想いに駆られるのである。

 定宿の近くに「霊山歴史館」がある。幕末維新の時代を駆け抜けた群像の貴重な資料が展示されている。討幕派のみならず佐幕派への公平な眼差しも感じられ、変革の時代に命を賭けた者たちを、立場の違いを超えて悼み賞する、高い見地に立った姿勢が伺えて共感を覚える。道を隔てた向かいに、京都霊山護国神社と維新に斃(たお)れた志士たちの墓地がある。

 明治維新については、毀誉褒貶さまざまな評価があるが、それなくして、日本の迅速な近代化が行われなかったことは間違いあるまい。

 維新後、封建制を脱するための様々な改革が矢継ぎ早に実施されたが、それらを支えた核心的価値観は、身分の固定の否定、特に政治権力世襲の否定であった。大名を廃し、自らの出身母体である武士階級を滅ぼした。かくして、明治においては、各界で「有能な人材の登用」が積極的に行われた。所定の教育を受ければ、農民出身者も軍の将校になれたのである。

 私が卒業した信州松本の高校(旧制中学)は、明治9年創立という古い歴史を持っている。西南戦争の前年に設立されたわけだ。この同窓会名簿の明治時代分を見ると、山国の少年たちが旧身分の士農工商という枠に関わりなく教育を受け、上級学校へ進み、そして中央の各界で活躍していく時代の息吹がありありとうかがえる。

 農民でも軍人、実業家、官僚になることが可能になった。明治維新は、すさまじい革命であった。

 しかるに今日、維新の志士たちの血で贖(あがな)われた〝革命の成果〟に対する裏切りともいうべき事態が進行している。政治の世襲化である。

 あきらかに民間指導層より教養見識ともに低く、民間組織にあれば決して指導的立場に立てないような人物でも、世襲崇拝が好きな、愚かで前近代的な選挙民に支えられて当選を重ね、要職に就き、国政を動かす。維新の戦いで斃(たお)れた若き志士たちへの裏切りである。

 今日、全国会議員中、親や親族が国会議員だった者の比率は2割強。自民党においては3割を超えている(衆議院35.56%、参議院22.76%)。政府や党の幹部では、世襲でない者をさがすほうが難しい。

 政治家たる能力を持った有能な人材はあまたいる。しかし、大衆の人気取り合戦でもある選挙では、知名度も支持組織も政治活動資金もない者は、立候補することが困難である。世襲候補はそのすべてがあらかじめそろっている。一番大事な「政治家としての能力」が欠けていても当選できるのが、民主主義という名の衆愚政治が成せる技だ。

 空きができた選挙区に昨今流行りの公募で、出馬するチャンスができる場合もあるが、現職がいる場合、その現職が引退しない限り、新人が出馬するチャンスはない。

 かつて中選挙区の時代、党公認を得られない若手新人が無所属で出馬し、当選したら〝追加公認〟するといった見事な新陳代謝のシステムが自民党にはあった。しかし、小選挙区制導入の際、「二大政党に収斂(しゅうれん)する必要がある」という、政治の側の勝手な決めつけによって、無所属候補は著しい差別を受けることとなった。即ち、テレビでの政見放送はできない。ビラの枚数も制限されるなど、さまざまなハンデが課せられるのだ。

 党の公認が得られないと政治生命を絶たれるから、政党は独立した政治家の集団というよりは、党幹部とその「将棋の駒たち」といった態を成す。選挙民にしてみれば、支持政党の候補がお粗末で支持したくないと思っても、各党候補者一名の制度のもとでは選択の余地はない。かくして政治家の顔ぶれは固定し、出馬しやすい世襲政治家が増えていく。

 選挙制度の見直しが必要だ。特に同一選挙区からの世襲候補の出馬を一定期間制限すべきだ。すでに、そのような制度を導入している国もある。「国民が選ぶのだから世襲も可」という安直な論理を振りかざす者がいる。間違いだ。

 民主主義の弱点は、「有権者は賢明である」という虚構の上に立っていることだ。大衆迎合時代の今日、政治家もそしてメディアも、この点に触れない。民主主義は、その成熟のために、政治家、官僚、メディア、国民のすべてが、自己変革のための不断の努力を求められている。政策を問わずに世襲を好む暗い後進性を脱却できねば、はなから民主主義を否定し、抜擢した能吏によるスピーディーな統治が行われる独裁国家に勝つことはできまい。

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