事業承継・相続 ~次の世代に残すために~
(2015年 7月発行ワールドナビ)

プルデンシャル生命保険株式会社 シニア・ライフプランナー 小林義典

 今年1月に相続税が大幅増税されたことは、経営に携わっている皆様にとっては耳馴染みのことと思います。
 では、どれだけの経営者の方々が、経営課題として事業承継対策に取り組まれているでしょうか。実際に将来を見据えて対策をされている方はどれほどいらっしゃるでしょうか。
 営々と築き育んできた事業を次の世代に引き継いでいくこと(事業継承)は事業家としての最後の大仕事です。
 今まで築いてきた会社や財産を、次の世代に残せるか、それとも全て水泡と帰してしまうのか。何も手を打たず、小手先で済ませて先送りしていると、後々大きな経営問題として圧し掛かってくるのが事業承継です。
方法論よりも背景・経緯が重要
 今年1月の相続税大増税の影響もあり、相続にまつわるトピックを目にする機会は増えています。様々なチャネルで相続・事業承継対策の必要性は訴えられており、少しネットを叩いただけでも、「争続問題」、「遺言書の作成」、「課税対象者・納税額の増加」等、事業承継にまつわるトピックを目にする機会は増えています。
 しかし、いざとなると、「いまいちピンとこない」「まだ先の問題」と感じてらっしゃる経営者の方も多いのではないでしょうか。そのような時は、単に数字的なことや方法論ではなく、皆様が会社を引き継がれた時、創業された時、いままで会社を存続させてこられた時のことを思い起こしてみてください。
 皆様が会社を創業したとき、または先代から引き継がれたとき、どのような考えや想いがあったでしょうか。
 銀行からの借入金の返済も残っている、従業員の家族の生活も背負わなければならない。もしくは、突然先代から会社を引き継ぎ、大きな不安と責任のなか信念と執念だけでがむしゃらに会社を支えられた。経営者ごとに様々な背景をお持ちと思いますが、長きに渡って会社を引っ張り続けていらっしゃることは、本当に凄いことです。
 私は、そのような社長の背景や経緯こそ事業承継を考えるにあたって大切な部分だと思います。
 今後は、ご自身が手塩にかけて育てた会社をどう次の世代にバトンタッチしていくか。ご自身が先代から引き継いだときのような苦労を後継者に負わせることなく、どうバトンタッチするか。そのような皆様の経営に対する想いを具現化させていくことから、事業承継対策は始まっていくからです。
事業継承の現場の問題とは
 実際の事業承継の現場では、様々な事態が生じています。
 例えば、私のお客様から、ご友人の74歳の社長さんが半年ほど前に亡くなりその会社が大変なことになっている、というお話を聞きました。
 その会社はご長男が引き継ぐ予定でしたが、相続財産は先代の保有する100パーセントの自社株(評価額約10億円)と自宅の土地建物および2000万円ほどの現金でした。先代社長の奥様は数年前に他界しておられたことから、他の2人の兄弟と遺産分割をすることとなり、結局兄弟3人でとりあえず自社株を3等分で分け、自宅の土地建物はご長男、残りの2000万円の現金を他の2人で分割し相続することになりそうとのことでした。
 しかし、ご長男が相続する自社株保有率では実際に経営をしていくことは困難であり、ご兄弟の株式を買い取る現金もないため、ご長男自身が社長を辞めることを含めて検討しているそうです。
 このように、例えば自社株評価額があまりに高い会社で、現金などの分割できる財産もない場合、後継者への事業承継そのものまでもが上手くいかなくなってしまうということは、よく耳にする事例です。せっかく先代が苦労の末に育てられた会社が、ご自身の望む形で承継されないということは、経営者やそのご家族を含めてとても残念なことです。
 事業承継の現場では、表ざたにされていないことが多いですが、このような事態が数多く起きているのです。
 後継者の経営権を磐石にするためには、自社株を分割することも、相続した自社株を誰かに売って現金化することもできません。例えばこのような自社株評価額は、会社によって異なりますが、皆様はなにか手を打っているでしょうか。
 右記のケースは、後継者以外の相続人が引き継いだ自社株を会社が買い取る「金庫株制度」を利用することもできた事例です。
 この「金庫株制度」により、後継者以外の相続人は会社に自社株を売ることで現金を手にすることができ、また、金庫株制度で買い取った自社株には議決権はなくなるので、後継者が保有する自社株による経営権は実質的に強化されます。
 もっとも、会社には金庫株制度で自社株を買い取るだけの資金を事前に準備しておくことが必要となります。
 つまり、事業承継においては、後継者が決まっていても、自社株などを含めた「資金」についても対策をしておかないと、後継者が実質的な経営者になることはできないのです。
 そして、このような対策を事前に講じておくことができることは、現経営者である社長しかいらっしゃいません。
 「事業承継は会社内でのこと」と考えられがちですが、オーナー経営者の事業承継の場合は、自社株や事業用資産など社長個人が保有している事業用資産の相続が大きく絡み、後継者以外のご家族も望むと望まざると当事者として必然的に巻き込まれることになります。
 ですので、ご家族にこのような事態が生じないようにしていくことがとても重要になります。
 皆様がご勇退を考えていらっしゃる年齢は、お幾つでしょうか。事業承継を考える場合には、それまでの期間にどの程度ご準備できるかがとても重要なのです。