一億総活躍社会の実現に向けて―
守りから攻めへの大胆なシフトチェンジを

衆議院議員 逢沢一郎
聞き手/公益社団法人 国際経済交流協会 会長 米田建三      
(2016年1月発行World Navi)

〝馴れ初め〟はユーゴ紛争がきっかけだった
米田 逢沢先生とは非常に古いご縁ですね。考えれば付き合いは20年ぐらいになります。セルビアの件が始まりですよね。
逢沢 そう、米田先生は旧ユーゴスラビアやバルカン半島に関心を持っていらっしゃいましたね。
米田 あの頃ユーゴ紛争があって、国際社会ではセルビアが悪で他が善だというような構図になっていた。単純な図式でどちらかを悪者に仕立て上げても仕方あるまいと、「ユーゴスラビアの平和を考える会」を立ち上げた。そして、セルビア側に日本の有力な国会議員を知っているかと尋ねたら、逢沢先生の名前が出た。外務委員長として行かれたんですよね。
逢沢 そうでしたね。私はちょっとあまのじゃくなところがあるのでしょう。問題がある、難しい国や地域に関心があった。そして森喜朗元総理の後を継いで、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)議連を引き受けたところが、ユーゴの内戦でもう大混乱になりました。当時は緒方貞子さん(日本人初の国連難民高等弁務官)が活躍されていて、私も旧ユーゴのことを理解せねばと考えたのです。
米田 あの頃、ユーゴ問題に首を突っ込むのはどうかしているんじゃないかと言う人もいました。だけど逢沢先生に頑張っていただき、最初はユーゴスラビアの平和を考える会の会長になっていただいて、私が幹事長になった。呼びかけには超党派で大勢の方が集まりましたね。あれがきっかけで立派な議連になって、セルビア友好協会もちゃんとできて今もうまく回っています。ハンガリーとの関係もご一緒させていただいていて、先生はもう国会関係で一番古くからの知り合いの一人です。

一億総活躍という言葉が持つ意味合いとは―

米田 先生は重責が相次いでおられて、今度はいよいよ一億総活躍推進本部本部長に就任されました。ただ一億総活躍というスローガンがいまいちよく分からないという声もちまたにはあります。簡単に言うとどんなことなのでしょう。
逢沢 日本の人口は現在約1億2600万人です。そしてやはり50年後の日本が人口1億人台をキープできる状況になくてはならない。既に人口は減少基調に入ったわけですが、政策的に努力をし、国民の意識も高めていかなくてはならない。そのためにはやはり経済が強くなくてはならない。強くなければ教育も社会保障も十分なことはできません。生活の基盤、あるいは将来に対する安心感といったものは医療や年金によって支えられているわけですが、そういう土台がしっかりしていなければ、逆に経済を強くする基盤が弱くなるということです。成長の果実を上手に分配する、好循環の社会をつくっていきましょうという目標を掲げたわけです。
米田 おっしゃる通り、一億という言葉は大きな意味があると思います。私もいろんな国の外交官と親しいのですが、こういうことを言う人が多いのです。日本に赴任を希望した、と。でもその前に人口が一億を超える国に赴任したいと自国の上司にお願いをしたと言うのです。自国内だけで一つの大きなマーケットが成立するので、自国経済の、コアの基盤をつくることができる。文化にせよ何にせよ、一億のマーケットがあるというのは大きいと言っていました。
逢沢 なるほど。考えてみると、人口一億以上の国って11カ国しかないですよね。
米田 この一億という数字を象徴とした看板を掲げたわけですが、中身としては経済のさらなる復調、そして少子高齢化に備える。健康な人も障害のある人も、男女問わずすべての人々が活躍できる社会にするということですね。

課題はあるものの、明らかに改善している今の経済状況

逢沢 具体的には現在のGDP500兆円という数字を、人口は多少減るけれども、生産性を上げて600兆円社会を実現しようという目標があります。そして人口問題は、現実的な数字として、まず出生率1・8まで回復させる。そして同居者、特に親の介護のために仕事を辞めざるを得ないという方が結構いらっしゃるんですよ。介護離職者ゼロも重要な目標です。収入が減るわけですから、経済的にもマイナスです。当面、この3つの具体的な数字を目標として掲げます。
米田 非常に分かりやすいですね。GDPを上げるということは経済政策として具体的にどう手を打つべきなのかが問われます。デフレ脱却まであと一歩と言われながら、完全に脱却したとは言い切れない実感も現実にはありますね。個人消費の改善テンポもいまひとつの部分がある。ここに喝を入れようとして、異例だけれど、政府が賃上げを経済界に要請したりしているなんていう状況もありますね。
逢沢 600兆円を実現する道筋は右から左にというわけにはいかないですよね。自民党が3年前に政権を取り戻して以来、安倍総理を中心に日本の本来の実力を取り戻そうという努力をしてきました。まず経済だということで、思い切った金融緩和、適正な財政出動、民間の力を引き出すための税制や規制緩和、改革。いわゆる三本の矢、正に政策総動員が行われてきました。米田先生がおっしゃったように、完全にデフレを脱却しきったというところまでは行っていないけれども……。
米田 いや、ものすごく改善してますよ。
逢沢 為替を適正な水準に戻すことができたし、企業収益も上がってきました。安倍総理が、官邸が、労働組合のお株を奪うような勢いでお給料を上げてくださいと言っていますね。やはりGDPの6割以上が個人消費です。今企業は空前の利益を上げ、内部留保も高いわけですから、人とお金が大きく動くようにしていかなくてはならない。まずお金が動かなければいけないでしょう。
米田 批判する人はいるけれど、現実的にこの10年を振り返ったら目覚ましく回復していますよ。
逢沢 雰囲気が明るくなりましたよね。

TPPは中小企業にとって大きなチャンスになり得る

米田 必要な政策を積極的に取っていくという点において、TPPを妥結したことは非常に大きいのではないでしょうか。
逢沢 大きいですね。農業分野に不安はゼロではない。丁寧に説明していかなくてはなりませんが、最善に近い出来だったのでないかと思いますよ。
米田 農業分野に不安がある、あるいは農業分野以外でも不安を述べている業界はあるけれども、その一方で早くも守りから攻めへというマインドチェンジを行っている層も多いですよ。農業者だって若い方々がITを駆使すれば、自分個人でも市場をつくれるわけですから。
逢沢 特に中小・零細企業の海外展開に向けて基盤を築いたということは非常に大きいですよね。やはり中小企業は、海外に大きく投資することはできない。海外とビジネスをした経験がない。情報もない。やりたくてもさまざまな心配がある。大企業のように法務部門を抱えることだって、中小企業には難しいですからね。ルールが出来上がって心配ないという状況が見えてくれば、これは大きな前進です。輸出大国としてのセカンドステージを迎える可能性がある。
米田 大きな市場、経済圏ができて、非常にきめ細かく各生産物についての取り引き・貿易リストができていくということですからね。未経験な企業も参画できる。正にそういう課題があるからこそ、私どもの協会も今まで中小企業の海外進出サポートを一生懸命にやってきたのですが、そういう意味では画期的な時代がこれから始まる。
逢沢 別な言い方をすれば、日本は一億以上のマーケットがあったから、特に中小企業の立場からすれば無理して海外に行く必要はなかったわけです。でも人口減少・高齢化が始まっている日本も、外へ出ていくタイミングを迎えているのでしょうね。

規制緩和はゼロベースから

米田 私は農業についても全然悲観はしていません。日本の食品に対する信頼感って、世界中どこに行ったってすごいですよ。やる気のある人にとっては、逆にチャンスがいくらでもあると思います。
逢沢 政府が農林水産物の輸出を(2020年までに)年間一兆円にすることを目標にしたとき、本当にそんなことができるのかと言っていたけれど、もう6000億を超え、7000億が近くなってきました。今朝日本酒を応援する会議があったのですが、フランスのワインはあんな高付加価値を実現している。でも日本酒だって精魂込めて、決してワインに引けを取らない商品をつくっています。しかしやっぱりまだマーケティングが弱い。日本食がこれだけブームなんだから、それに合わせて日本酒だけで1兆円を目指そうという大きな旗を、今朝決意して掲げたところです。
米田 規制緩和の徹底についてはどうでしょうか。
逢沢 安全や治安を確保するための規制は大事ですが、経済分野での規制が、そのルールが誰の何のための規制なのかということをゼロベースに戻してよく考える必要があると思いますね。一つ悩ましいのはネットを使ったビジネスです。例えば地方で、町に買い物に行くのが大変といった場合、パソコン一つですぐ商品が届くというのはITツールの恩恵です。しかし薬や医薬品のようなものをネットで扱うということになると、どこで線を引くべきなのか。やはり安心や安全、衛生、そういうものはしっかり確保しながら、その他の経済的なものは、創意工夫あふれる社会に放り出した方が、結局消費者の利益になります。

外国からの労働力を本格的に導入せざるを得ない現状

米田 そしてもう一つの課題が労働力不足です。人口減少に対する施策を打つにしても、子どもが育つには時間がかかりますから、しばらくこの状況が続くと見なければいけないでしょうね。海外に出るだけではなくて、日本自体においてもものをつくり、人口一億社会を維持するのであれば、シンガポールのような頭脳センターでいいという風にはいかない。稼働人口の減少に対して手を打たざるを得ないと思います。私は外国人技能実習生を受け入れる組合の顧問をしてきたのですが、かつてはものすごく規制が厳しかった。この業種はいいけど、この業種はだめだという規制があったのですが、背に腹は替えられなくなってきているのかな。いろんな業種に拡大していますよね。受け入れた実習生の祖国に進出するときに、彼らに手伝ってもらうというような展望を持っている企業ももちろんある。でも理屈抜きに人手が足らないということで、技能実習生の制度を利用した人材の争奪戦が始まっている現実もある。
逢沢 確かに外国からの労働力を本格的に導入せざるを得ない状況に段々なってきています。
米田 業種によっては、特に介護なんて大変でしょう。
逢沢 介護、看護……私はバス議連の会長もしていますが、タクシーも含めて運転手の人材も、将来は確保するのが大変になるでしょうね。
米田 技能実習という美名では収まらない分野も出てきますね。タクシードライバーは技能実習生じゃないだろう、と。では不足している分の労働力が欲しいとなったとき、現在の労働ビザはかなり限定されています。(ビザを取得できるのは)かなり高度な人材でしょう。そして実際、大企業は優秀な外国人の採用を始めています。
逢沢 うかうかしていると中国や韓国に人材を取られると危惧する人もいます。例えば中国はあれほど人口があっても、すごい勢いで高齢化するわけだし、教育的な観点から見てもASEANから人を連れてきた方がいいということになるかもしれない。そこは切迫感を持ちながら、日本で働きたいという大勢の外国人の方にチャンスを与えて、それを迎える日本社会がハッピーだというウインウインの関係でいきたいですね。
米田 私はこの間、ある日本の医科大学と、ベトナムの医科大学およびその医科大学と連携している専門の短大・カレッジと、MOU(了解覚書)を結ぶお手伝いをしました。その大学やカレッジから、看護課程で学んでいる学生を、1年生や2年生の段階で日本に留学させると、言葉を覚えるのが速いんです。そして彼らが日本の看護師の資格を取れば、日本で就労できる。ある国で出来上がった看護師を日本に呼んで、漢字のテストをしてというやり方では、外国籍の看護師への門戸を狭めているとも感じます。日本は従来の発想だと大変なことになるのではないかと心配しています。規制緩和も含めて、いろいろ工夫していかなければならないでしょう。

働き方に多様化を。そして再チャレンジが可能な社会に

逢沢 それこそGDP600兆社会をつくろうと言ったら、その人材・担い手が配置されていませんので、経済活動の基盤が整っていないということになります。まず国内で努力できることは何なのだという議論もしています。少し高齢になられても、健康で働く意欲のある方には、フルタイムじゃなくても働いていただく。それとやはり女性、家庭に埋もれている女性の力を活用するということも大切ですね。あるいは例外的な話ですが、一人二役というのでしょうか。IT企業に本籍はあるのだけれど観光案内の仕事もしているという人の例を、NHKの番組で見ました。これは特に地方の場合、条件が整えばそういうこともできるかもしれません。
米田 働き方の多様性の確保は大切ですね。いわゆるテレワークとかフレックス制などという話もありますが、こういうことは企業にまかせたままで自主的にどんどん変わっていくということではないでしょう。
逢沢 政治が多様な働き方を推進していく必要は当然あるわけで、そもそも正規雇用、非正規雇用が半々に近づくような時代です。でも、非正規社員の中には、正社員になりたいのだけれど我慢しているという方々だけではないわけです。さまざまなご自身の意思、置かれた状況によって非正規雇用を選択している方もいる。そういう方にさらに柔軟な環境を与えていく、より良い形で高度な能力を発揮していただく工夫は大切なことですし、ようやく企業側でも理解が進み始めていると思います。
米田 先生は、誰にも平等にチャンスがあって、再チャレンジができる社会を目指すということをサイトで謳われていますよね。
逢沢 一度しくじったらもう二度と向こう岸に渡れないというようなことでは、本当の活力なんて出てこないわけです。世の中は大きく変わりますから、今までの仕事とは別な分野で挑戦をすることも必要でしょう。その際、再チャレンジするための知識や技術が必要になってくる。キャリア教育や研修が大切になってきます。それと金融機関ですね。地方の銀行、信用金庫などが、小さな会社や、志が高くてやる気のある経営者を見つけて育てていく。そこにリスクマネーを供給していく必要があります。先日金融庁の職員と話をしたのですが、彼らはその点について意欲を持っていました。やはり再起を期す人のところに適切にマネーが供給されるということも大事ですよね。

テロ情報集約の必要性

米田 最後に、先生はさまざまな重要な役割を担ってこられましたけれども、大きな政治活動の軸は外交だと思います。残念ながら国際社会は危機に瀕しています。テロの脅威は他人事じゃないわけです。テロ関連情報を一元的に集約する「国際テロ情報収集ユニット」が外務省に設置されるとのことですね。
逢沢 将来本格的に英米でいうところのインテリジェンス(情報機関)になっていくのであれば、内閣や官邸で一元化して、政治が集約していかなくてはならないのかもしれません。とにかくまず現段階では、新しいユニットをつくって、外務省、防衛省、警察庁、公安調査庁も含め、精鋭を集めてテロ情報を集約していく必要があるでしょう。外国のインテリジェンスとのやり取りも非常に大事になってくる。やはり世界ではギブアンドテイクだから、大事な情報をもらうためには何か差し出すものがないといけない。ようやくそういうことができるようになる重要な段階に差し掛かっています。
米田 さまざまな課題が政治にはあるし、これからもご苦労が続くかと思いますが、どうか健康にご留意されてください。
逢沢 ありがとうございます。お互いに頑張りましょう。