中小企業の”下請け構造”を今こそ是正する
そして第4次産業革命こそが日本の未来を救う

経済産業大臣 世耕 弘成
聞き手/公益社団法人 国際経済交流協会 会長 米田建三      
(2017年1月発行World Navi)


サラリーマン時代には想像できなかった安倍総理の素顔

米田 世耕大臣はサラリーマンもご経験されていますね。NTTに勤務されていたそうで。
世耕 年間勤務しました。大学を出てすぐ就職をして。残業100時間を超える猛烈サラリーマンでしたね。
米田 すごいですね。そもそもNTTを志望された動機は何だったのですか。
世耕 就職活動は一通りやったんです。銀行も商社もメーカーも全部回りました。それなりに内定ももらっていたのですが、〝なんとなくこれじゃないな〟という思いがありまして。そんな頃に就職雑誌で、民営化されたばかりのNTTの募集を見つけたんです。
米田 ああ、あの時代ですか。世耕 電電公社が民間企業となって、初めての採用でした。私はパソコンとかIT関連のことを早くから始めていたので、ここは自分にぴったり合うかもしれないと思って応募して、採用となりました。
本当に普通のサラリーマンでしたよ。私の伯父は政治家だったんですけれど、後を継ぐとかそういう感覚は全然ありませんでした。
米田 ところで世耕大臣といえば安倍総理の側近中の側近といえますよね。私も総理とは古くからお付き合いをさせていただいている仲なのですが、傍におられて〝安倍総理の素顔を
どうご覧になっていますか。
世耕 私が18年前に初当選して国会に来たときに、党の部会で教科書問題、近隣諸国条項について議論していたんです。そのとき、今の安倍総理が舌鋒鋭く論陣を張っている姿を見てすごいなと思いました。私がサラリーマンの時代には、安倍晋太郎先生の後を継いで政治家になられたというイメージしかなかったんです。で、ちょうど同じ清和政策研究会に入っていたこともありまして、そこからずっとお付き合いをさせていただいています。
 総理は非常に優しくて包容力がある一面と、ここは絶対譲れないというところではてこでも動かない一面、この二点が共存している方ですね。そして周りの人間に自発的にサポーしたいと思わせる、今の政界にはなかなかいないタイプのリーダーです。
米田 意外にB級グルメが好きだったり気さくな人で、〝支えなくちゃいけない〟と周囲に思わせる、いいキャラクターですよね。

中小企業にアベノミクスの恩恵を浸透させていくことが課題

米田 安倍政権に対する期待はやはり、民主党政権時代にガタガタになった日本経済の立て直し、これが目に見える形で進んでいるという実感が国民の総意としてあるのだろうと思います。毀誉褒貶いろいろあるけれども、明らかに歯車を回してくれている。世耕大臣は安倍政権の経済産業政策のこれまでの総括と、今後のポイントについてどうお考えですか。
世耕 アベノミクスはまだ道半ばだと思います。一つ一つの政策がそれぞれ100点満点を取れているわけではない。でも実は経済政策って、100点満点の答えはみんな分かるんだど、実行できるかどうかが問題なわけです。改革をするときには、当然それによって不利益を被る人たちもいますから。100点満点を目指しても20点ぐらいは妥協をして、その代わり確実に80点の答案を仕上げるのが安倍政権のやり方。100点満点の立派な答案を書いて、何もできなかったのが民主党政権だったと思います。安倍政権が泥まみれの現実の中でも答えを出していって、きちんと法律や予算に反映したり、規制改革も進めている姿が評価されているからこそ、ここまで国政選挙4連勝という形になってきているわけです。
 そして今後の課題は、よりアベノミクスを経済の現場に浸透させていくという点ですね。総理からは、これまで(世耕氏が) 官房副長官として官邸で様々なプランの立案をやってもらってきたけれど、これからは経産省という現場を管轄する役所に入って、特に地域の中小企業の現場に注目して頑張ってほしいとご指示を受けました。
今、私は二つの視点から取り組んでいるんですが、一つ目は地域の中小企業の〝下請け構造〟について。中小企業というのは大体、大企業のサプライチェーンに組み込まれていて、一次下請けから五次六次下請けといったところまで〝重層的下請け構造〟ができているのが実情です。この中小企業群の多くが、まだアベノミクスの成果をなかなか実感できていません。その大きな原因として、下請け取引の慣行に問題があると思っています。中小企業がある程度〝被る〟ということを前提に取引が成り立っている。今、発注側の大企業、そして受注側の下請け中小企業に細かくヒアリングをかけて実態把握をしたうえで、各業界別に改善をお願いしています。
米田 〝被る〟と言いますと……。
世耕 例えば価格決定が不公平で、大企業から一律で(受注費を)今年は何%下げるぞというようなことを言われる。あるいは円安になれば海外から調達している材料費も当然上がるわけですが、その上がった分を価格に反映してもらっているのか。してもらっていません。原発が止まっている中で産業用の電気代が3~4割上がっていますが、この上昇分も価格に反映されていません。今、最低賃金を上げようと頑張っていますが、やはり最低賃金で人を雇っているのは、サプライチェーンの末端の零細企業なんです。そこの賃金を上げる分を、大企業が見てくれていない。結局中小企業が被っているわけです。

中小企業を甘やかすわけではないが、大企業には社会的責任がある

世耕 他にも取引慣行の不公平な例はあります。例えば中小企業が、大企業に新しい部品の試作品を10個つくってくれと頼まれたとします。「そのうち量産になったら君のところに頼むからさ」と。そこで「10個の試作品は、100万個つくるときの単価でつくってね」と言われるんです。10個つくるときと100万個つくるときの単価は、当然全然違うわけですよ。
さらに大企業に「ごめんなさい、プロジェクトが没になったから」と言われて、その試作品代を被ったりするケースもある。他にも不公平な習慣はたくさんあります。これを今、業界別に発注側に改善ほしいとお願いをして、自動車工業会、情報機器産業……こういうところは、年内に改善計画をまとめますと言ってくれました。
米田 そこまで細かくチェックしていると伺って驚きました。それは中小企業にとって救いの神でしょう。
世耕 今までは言えなかったんですよ。言えば、じゃあ中国に頼むよと言われて終わりだったわけです。サプライチェーンの末端のことまできちんと面倒を見るのは、大企業の社会的な責任だと思います。大企業は空前の決算なのですから、それを自分の生産に協力してくれる企業に分け与えていくというのは当然のことでしょう。
米田 日本経済の強みは、優秀な中小企業が法人のシェアを圧倒的に占めていて、これが経済を支えてきているんだといわれてきましたから、その中小企業の苦しみを取り除かなくてはなりませんね。場合によっては、業界の努力を促すだけではなくて、法制化できる部分は法制化するご用意もあるんですか。
世耕 今のところは業界の取り組みにまかせたいと思いますけれど、法制化に近いところでは、例えば公正取引委員会と連携をして下請け取引法の運用基準を変えています。運用基準の中に〝悪い例〟をしっかり入れていく。今、ようやく公正取引委員会も協力してくれるようになりました。
米田 そこが微妙なところですね。あまりやり過ぎて、市場経済の良き部分も殺してしまうとまずいですから。
世耕 私は別に大企業に、中小企業を甘やかしてお金を上げてくれと言っているわけではないんです。当然コストダウンはやっていかなくてはならない。でもそのときは一方的に押し付けるのではなく、一緒に考えていって欲しいということです。

日本が抱える多くの課題を第四次産業革命の技術で克服できる

世耕 そして大事なもう一点は、第四次産業革命という想像もつかない大変化が今起こってきています。これに日本の産業がちゃんとついていく、ついていくどころか分野によっては先行して世界を引っ張っていかないと、日本経済の将来の姿が描けないと思っています。例えば自動運転などは、もしかしたら自動車のつくり方を根底から変えていくかもしれない。
今、日本は自動車産業が外貨を稼いでくれているわけですから重要ですよね。
 私が恐れているのはスマートフォンのような例です。例えばアップルのiPhoneの裏面は燕三条の鏡面磨きの技術が採用されています。カメラはソニーのカメラです。ディスプレイはシャープかジャパンディスプレイの製品です。かなりの部分は実は日本製なのですが、一番心臓部のところはアップルが押さえている。あるいはiPhoneを使ったいろんなビジネスは、アマゾンなどが押さえている。ということで実は日本のものづくりは、単なるアップルの下請けになってしまっている。そしてiPhoneの売れ行きが悪くなると、途端にシャープも苦しくなるということが起こってしまっています。
 私は自動車で同じことが起これば大変なことになると考えています。これから自動運転を使ったいろんなビジネスが出てくるはずです。そこで自動運転の頭脳の部分を海外に押さえられてはいけない。今のところ日本の自動車業界は非常に強いわけですから、そのまま自動運転の世界でもリードしていけるようにどうしたらいいのかということを、経産省のスタッフも徹底的に考えています。自動車産業界ともよく議論をしなければなりません。
米田 自動車の例をお話しいただきましたが、日本はこれから高齢化社会がますます進行します。それから子育て政策がうんぬんといっても、子どもが大人になって成果が出てくるのは20年ぐらい後です。今のような革命的技術革新の時代において、例えば福祉・医療関係の人材不足の解消などにも、新技術を活用できる部分が大いにありますよね。
世耕 その通りです。
米田 お年寄りを無人の車が迎えに行ってお世話をするとか。あとは医療でも、優秀な医師が、遠隔操作で離れた場所にいる患者の治療にあたるなんていう話も聞きます。そういう技術が一般化すれば非常に利便性の高い社会をつくれるでしょう。
世耕 様々な分野で可能性がありますよね。話の通り、例えば内視鏡の手術は、もう特定の医者がそばでやる必要はないんです。他にも、過疎化の集落で小売店がなくなっている。でも高齢者の皆さんは自動車の運転ができない。
 例えばそこへドローンで物を運んでいくとか、実は日本が抱えている多くの課題は、この第四次産業革命の技術で克服することができる。ものづくりの現場でも建設現場でも人手不足がささやかれています。
 そこで将来ロボットの導入が絶対必要になってきます。〝必要は発明の母〟ということわざがありますが、われわれには〝必要〟が山ほどあるので、それを解決していくために、第四次産業革命の技術を発展させていく。ロボット、IOT( あらゆるモノを結ぶインターネット)、AI(人口知能)…… こういう技術の進化によって、日本が世界の最先端を走っていける可能性は十分にあると思っています。

求められる地方への〝分散〟

米田 今の話に関連して、地方の活性化の問題があります。まさに第四次産業革命の技術でカバーできる部分がたくさんありますね。私はかねてより、明治維新の逆をやるべきだと言ってきました。あの時代は急いで欧米に追いつくために、東京をはじめとする太平洋岸の大都市に地方の富から人材から全部集中して産業を興し、わずか100年で一気に近代国家としてのし上がった。その政策の功績は大きいけれど、今は分散が絶対必要ですね。私が感じるのは、これまで地方はあまりに人も金も物も取られすぎちゃっていますから、自分たちで努力しなさいと言われても……。
世耕 それは無理ですよね。
米田 いいアイデアがあれば国が助けますと言われても、村の青年団の平均年齢が60代のところで、いいアイデアを出すのは難しいでしょう。ITを含めた技術革命の時代ですから、日本の村に世界企業の本部があったって商売はできるわけです。アメリカなんて、田舎の州に有名な大企業の本社があったりする。日本もそういう構造に変えていかなければならないと思います。
 例えば税制のインセンティブを徹底的に設けて、企業が地方へ本社ごと移転するよう奨励していく。ただし一応ひな型をつくって、北海道にはこういう企業の移転が望ましい、北陸はこういう企業が望ましい…… という型をつくってみるぐらい大胆なことをやらないと、地方の活性化はなかなか難しいと思います。
世耕 この問題に関して私は、大企業にマインドを変えてもらわなければいけないと思っています。東京に本社がないといけないという感覚がまだありますが、地方に移転して成功している企業も結構ありますからね。地方の方が家は広いし、マイカー通勤で通勤時間も短いし、地方は近所の面倒見がいいから子どもも預けられるし、ある企業では地方移転によって、女性管理職の出産率がものすごく上がったそうなんです。こういうことに大企業は取り組まなくてはならないと思います。
 それと小・中学校の時から、活きた経済教育を行うべきですね。東京へ出て暮らすというのはすごくリスクが高いです。東京で一戸建ての家を建てて、子どもを2人生んで幸せに暮らそうと思ったら、30代の夫婦で年収1000万円はないとできませんよ。しかも東京で年収1000万円に到達できる可能性は全体の約4%ぐらいです。だから通勤時間1時間半ぐらいの遠い場所に家を建てるか、子どもを諦める。でも地方によっては、それが年収400 ~500万円で可能です。地方で年収400 ~ 500万円なら70%ぐらいの確率で到達できる。本当に幸せな生活をできる可能性は明らかに地方の方が高いんです。どちらがいいのか、子どもの頃からよく考えさせる経済教育をやっておく必要があると思います。

ロシアとの経済協力発展は日本企業にとって大きなチャンスに

米田 世耕大臣はロシア経済分野担当相も兼務されていますね。日露の間には不愉快な記憶や様々な課題がありますが、日露がお互い引っ越しようのない隣国であることは変わりません。日本とロシアの連携について、実はロシア側でも望んでいる人がとても多いんです。中国の台頭があって、陸続きだから中国人のロシア進出がものすごいことになっている。私が親しくしているロシア人のある知識人は、もうちょっと日本にも出てきてもらいたいと。ロシアも多角的な関係を持ちたいんだと常に言っているんです。過去は過去として、未来に向けた関係強化というのは絶対に必要だと思います。
世耕 これだけ近くにある大国同士でありながら、平和条約が締結されていないことによって、経済関係は本当に希薄です。貿易高でも日中の10分の1以下ですから。逆にいえばまだこれから伸びしろがすごくあるわけです。
 今、いろんな経済協力プロジェクトを動かすべくやっていて、まだ詳細は申し上げられませんが、日本企業から多くの手が挙がってきています。それに対してロシア側からもぜひやってくれという声が出てきまして、非常に面白い展開になってくるだろうと思っています。
米田 ぜひ頑張っていただきたいと思います。本日はありがとうございました。
世耕 ありがとうございました。
─この記事は、平成28年10月24日に行われた対談をまとめたものです。