年間1億2000万食の麺類を供給する企業 原料調達から商品開発まで、その試練の道程


株式会社ニッセーデリカ 代表取締役社長 川手康正
聞き手/公益社団法人 国際経済交流協会 会長 米田建三   
(2015年10月発行World Navi)

米田 御社は1962年に日本投資株式会社という名前で創業されましたよね。そして1964年にニッセー株式会社、1994年から株式会社ニッセーデリカに社名がお変わりになっています。今現在は大手コンビニエンスストアの麺商品を製造する事業が主体なわけですが、どんな事業の変遷があって、今日までのご発展があったのでしょうか。
川手 投資会社の時代の事業に私は詳しくないのですが、ニッセー株式会社となってからは、チェックライター(手形、小切手等の用紙へ印字するための専用の機械)の販売代理店から、水着を入れたりするサマーバッグ、ビデオのケースの製造まで、いろんなことをやっていました。その中で食品の事業をやろうということになったんです。
米田 それまでの流れと随分違いますね。急に食品に飛んだきっかけは何だったのですか。
川手 〝産地直送〟のはしりの事業だったんです。製造現場から小売に直送便で送る。そこに新規事業の大きな可能性を見い出したのでしょうね。まずは小樽と、その後長崎に工場をつくりました。
米田 向こうでつくられたものを冷凍して持ってくるとか、そういうことですか。
川手 いえ、そのまま冷蔵で持ってくるんです。小樽だったら味噌ラーメン。「空飛ぶラーメン」と言って飛行機にラーメンを乗せてきたんです。
米田 それはすごいですね。そのまま注文した顧客のところに持って行くわけですね。
川手 はい。当時の顧客は大手スーパーでしたが産地直送ということで非常に売れました。ただその後、産地直送のブームが下打ちになって、大手コンビニから調理麺の工場を買い取ってみないかというお誘いがありました。一度、生麺を卸していたつてもあり、1994年から本格的に取引を始めて、全面的にその大手コンビニに麺類を供給しようという会社の方針になりました。

大量生産を支えながら、手打ち麺以上の味を実現するために

米田 大手コンビニも拡大の途上にあった頃ですね。どんどん店舗を増やしていた時期ですよね。
川手 当初は6000店舗ぐらいでしたね。もちろん今はもっと増えていますが。
米田 麺類はポピュラーな商品だから、相当な供給量でしょう。確保する体制をつくるだけで、大変な努力が必要だったはずです。御社が粉を仕入れて、麺にして納めるわけですよね。具材も必要になってくる。最初は材料を国内だけで調達できたのですか。
川手 形的には昔も今も国内で材料調達は行っております。例えば粉は国内の製粉会社から仕入れていますが、海外から原材料を仕入れて、国内で製粉するということです。北米やカナダから仕入れたりしていますし、蕎麦粉は今、中国とアメリカとフィリピンでやろうとしています。それも製粉会社を通します。
米田 それは事実上、御社の直営ですか?
川手 製粉会社と共同事業ですね。
米田 海外での展開はまた後ほどお聞きしたい。想像がつかないのですが、現状、量で表現するとコンビニにどのぐらい出荷しているんですか?
川手 蕎麦にうどん、種類はいろいろあるんですが、夏のピークで一日70万食、年間で約1億2000万食ぐらいです。
米田 国民一人が年に1回食べる勘定ですね。大量生産しながらも〝手打ちよりもおいしい麺を機械で〟というスローガンが御社にあります。その上での技術や強みはありますか。
川手 例えば手打ち蕎麦は200回ぐらい圧延(延ばす)するんです。我々の機械は以前5回圧延でした。小麦粉に入っているグルテンという物質が麺に粘りや弾力を与えるのですが、急激に圧力をかけると、グルテンの組織が壊れて弾力がなくなってくる。徐々に麺を延ばしていく必要があるんです。そこで技術改良により、今は9回圧延にまで増やしました。
米田 そういう企業努力があって大手コンビニとの信頼関係ができて、いわば生麺類を一手にお引き受けになっているわけですね。

一筋縄ではいかない、原材料確保の道程

米田 先ほどお話に出ましたが、日本の原料調達はほとんど輸入に頼っています。御社の小麦粉や蕎麦粉の何割ぐらいが海外産ですか。
川手 約9割です。
米田 製粉会社から仕入れるとしても、御社も一緒になって海外の生産拠点も押さえたりするわけですか。大変でしょう。
川手 かなりの労力を必要としますね。特に蕎麦粉については、年間国内消費が約10万トンです。弊社が主体になって開発しないといけない部分があります。
米田 蕎麦全体で御社はどのぐらいの量を必要としているんですか。
川手 弊社だけではなく大手コンビニの全体量として、年間約5000トンぐらいです。そのコンビニの需要だけで、日本の需要の5%を占めています。
米田 それだけの原材料の生産拠点を押さえるのは一筋縄ではいかないはずです。中国、アメリカと併せてフィリピンに拠点を広げた点については、どんな経緯があったのでしょうか。

モロ・イスラム解放戦線との協働

川手 フィリピンの現在の主な生産拠点は、ミンダナオ島・南ラナオ州のブンバランという町にあります。フィリピンとの経緯は、10年程前にフィリピンの日系人を労働力として募集するために行ったんです。しかしそこで蕎麦の栽培に適している場所を見つけました。気候に寒暖差があるということが、蕎麦には一番いいんですね。その時、バギオという高原都市に行ったら、最低気温が15度くらいまで落ちるんです。フィリピンの軽井沢と言われている所で、昼間は暑いんですが夜は寒い(注:ブンバランもまた標高千メートルを超える高地。バギオは台風が多いので、後の生産拠点とはならなかった)。
米田 蕎麦は高地にできますからね。でも元々フィリピンには蕎麦粉なんてないですよね。フィリピンに蕎麦という新しい植物を持ちこんだというわけですね。コスト面で考えてもフィリピンの方がやりやすいのでしょう。ところで近年、ミンダナオ島でイスラムとの紛争がありましたよね。危険はないんですか。
川手 イスラム武装勢力の件ですね。2014年に一応フィリピン政府と和平協定が結ばれました。それと共に、JICA(国際協力機構)の支援を得て、モロ・イスラム解放戦線(フィリピンのイスラム過激派・略称MILF)の人々とも原材料生産の事業を始めたんです。
米田 でもまだ危ないんじゃないですか。
川手 和平協定が結ばれた後に、戦争をやってきた元兵士も鍬を手にして農業で汗をかいて、収入を得なきゃダメだという機運が生まれているんです。
米田 それはまさに御社も平和に貢献しつつ、事業を展開されているということですね。
川手 彼らは働き手としてなかなかいいですよ、統率された集団で。
米田 なるほど、ダラダラしている人間よりいいのかもしれない。すごい話ですね。フィリピンにとっても歴史的なことですよ。

世界一食に厳しい、日本の消費者に認めてもらうために

米田 今、工場は何カ所お持ちなんですか。
川手 国内に5カ所です。従業員は正社員で300名以上、パートを含めた従業員数で約1600名ぐらいの規模です。
米田 いわゆる労働力確保っていうのはどの産業でも問題になっていますが、その問題とは別に外国人技能実習制度というのがありますね。実は私が顧問をしている外国人技能実習生を支援する協同組合が、この度御社にお世話になっているようですけど、これまで実習生を入れたことはおありですか。
川手 技能実習生は今年が初めてですね。この4月の法制度で受け入れ事業の拡大が行われて、そこに惣菜が入るからです。
米田 御社でも技能実習生に仕事を覚えてもらい、将来完成品までつくる工場を外国でつくるという展開もあり得るんじゃないですか。
川手 今のところそこまでは考えていないです。言い方は悪いですが、まず国内をキチッとまとめていかないと。やはり日本の消費者の食に対する意識は、世界で一番厳しいと考えています。そこでもっと価値を認めてもらうまでは、海外展開は考えられません。
米田 そういう意味では、御社の工場でも、一人一人がただマニュアルでつくればいいということではなく、働く人のセンスや質は大きく影響するんですか。
川手 大きいです。マニュアル通りにやっても、野菜の色がおかしいとか、腐敗しているなどということが起きる可能性はあります。弊社の工場で働いている外国人従業員の中には、そういう時におかしいと指摘する方、マニュアル通りだけじゃ済まさないという方もたくさんいますから。郷に入れば郷に従えじゃないですけど、そういう感覚が自然に身についていきますよね。

〝定番〟にこそ力を込めて

米田 微細な感覚を共有できなくては、日本式と言っても形だけになってしまう。一種の職人の世界です。だからあくまで完成品は国内でおやりになるという方針なわけですね。それと、大手コンビニとの長い付き合いの中で、向こうのオーダーだけではなく、やっぱり御社から提案していくこともありますか。
川手 提案はしょっちゅうしていますよ。社内に開発チームのようなものがあって、コンビニ本体の商品部と協働して新しいものを出します。
米田 御社の提案でヒットした思い出深い商品を教えてください。
川手 一つ挙げると、冷やし中華の三層麺ですね。麺を三層にしてあるんです。真ん中に固い生地を入れて、外側に柔らかい生地を入れて、〝もちもち〟するんですね。三層麺だと言わなくても食べれば違いがわかります。
米田 あくまで冷やし中華の枠内での新技術ということなんですね。
川手 やっぱりオーソドックスな商品は強いです。ざる蕎麦やとろろ蕎麦、冷やし中華……よく隙間のスポット商品も出すのですけれど、それは突発的に売れてもやっぱり定番商品には抜かれてしまうんですよね。売り上げの7~8割は定番商品です。毎週一品は新商品を出させていただいているんですが、それでも定番の価値をどう高めるか、常に考えています。

商品の衛生管理には、社員の待遇面も含まれる

米田 当たり前のことですが、食品衛生や食品の管理基準は、世の中でうるさくなっていますね。特に大手コンビニのような大看板の麺類を引き受けるという中で、その点に神経を使わないといけないでしょう。現場の工場での管理が勝負ですね。
川手 はい、チェック専門要員が全カ所に配置されていて、ビデオカメラを設置しています。それと、過去の日本の企業において日本人社員と外国人社員の待遇に差をつける会社もあったでしょう。弊社はそういうことは全然してこなかったですから。待遇が良くないゆえに、社員が嫌がらせでフードテロを起こしたという事例も他社ではあります。その点、弊社は外国人のパートでも、日本人のパートと変わらない年収です。そして深夜労働ですからね、それに見合った報酬を出しています。対応をちゃんとするということです。
米田 そういう万全な体制で運営されているということですが、今後何か新しい方向性に手を伸ばしていこうという構想はありますか。
川手 いえ、麺だけです。さらに完成度を高めていきます。調理麺という業種の歴史はまだ20数年しかないわけですから、まだまだうまくなっていく要素があります。消費が落ちてくるから海外に出るという戦略を取る他社もありますが、弊社はもっと商品の価値を上げられると考えているんです。