『日本への期待感は大きい』

日本国政府代表(中東及び欧州地域担当) 飯村 豊
聞き手/一般社団法人 国際経済交流協会 代表理事 米田建三                  
(2012年1月発行World Navi)

ユーロ危機や、中国の台頭によるアジア勢力再編等、世界が大きく動き出しています。日本の中小企業は素晴らしい技術と人材の宝庫であり、自信をもって世界と戦うことが出来るはずです。海外進出や国際力を磨く為にも、外国から見た日本を知ることも重要な意味があるのではないでしょうか。永らく外交官として活躍してきた現日本国政府代表の飯村 豊氏に話を聞きました。
【外交官という道の選択】
米田 飯村さんの外務省への入省の時期と、外交官を目指された理由を教えて下さい。
飯村 私は、外国に関係ある仕事がしたかったので、外交官か、大学で国際政治の教授になるか、商社マンになるかの3つを考えていましたが、大学在学中に外交官試験に合格したことにより、昭和44年に外務省へ入省しました。
米田 昭和44年入省ということは既に外交官生活も40年になりますが、これまでの外交官生活で一番思い出に残っている国はどこでしょうか。
飯村 インドネシアですね。インドネシアでは事件がとにかく多く、大使として赴任した2か月ほどあとの時期に、バリ島で、アルカイダ系の爆破テロ事件がありまして、観光客が200名ほど亡くなり、日本人も2名亡くなったのです。私を含め、駐インドネシア日本大使館員の大半がすぐ現場に駆け付け対応に追われたのはよく覚えています。
その後も、幾多のテロ事件が続きましたし、アチェの大地震・津波により日本からも1000名以上の自衛隊員が派遣され、また、緊急援助隊やNGOが活躍しました。
※アチェ州:インドネシア共和国スマトラ島北端に位置する州  インドネシア政府に対して、自由アチェ運動が独立を要求して長い内戦状態にあったが、2004年12月26日に発生したスマトラ島沖地震による大津波でアチェが壊滅的な被害を受けた事を機に休戦。2005年8月15日に政府との間で和平協定が結ばれた。その後、独立放棄と武装解除に応じ、インドネシアの州であることに同意。
【日本とインドネシアのパートナーシップがカギとなる】
米田 私はTPPに賛成なのですが、日本はTPPに入って、その中でどれだけ日本にとって有益に話を進めるかの交渉が大事で、TPPに入るか入らないかの入り口で迷う段階ではありません。貿易国家日本が、孤立してやっていける訳がない。
飯村 TPPについては、永らく経済の視点から農業保護などの議論をしておりましたが、あわせて重要なのが戦略的な視点です。
現在、東南アジアで何が起きているのかといいますと、中国の台頭にともない東南アジアにおける力のバランスに少しづつ変化が起きつつあるのです。中国の牽引力が強まる一方、アメリカもイラク、アフガニスタンの争いを収束させ、アジアにカムバックしようとしています。この先、A S E A N は、アメリカと中国の影響力競争の場になる可能性が大きく、日本の立ち位置をどこに置くのかということが大変重要になってきます。
私は、米国との同盟関係を強化し勢力均衡の努力をしながら、地域協力も深めていくという形にするのが良いと思います。東南アジアの中で、インドネシアは人口2億3千万人の大国であり、日本と同じ海洋国でもあります。日本とインドネシアが戦略的パートナーシップを強めて行けば東アジア、東南アジア全体の勢力均衡と協力関係のコアになると考えます。
米田 資源確保の点からいってもインドネシアとの関係はとても大事ですね。
飯村 インドネシアは親日国で、日本への期待も大きいのです。ASEAN加盟国の中にも日本のパートナー国家は他にもありますが、国の規模といいインドネシア自身がASEANの雄であり、非同盟国の雄ですので、インドネシアを通じて非同盟国との関係強化も図れると考えています。
米田 インドネシアに日本企業進出の余地はまだ十分あるのでしょうか。タイと比較してどうですか。
これからの日本の中小企業は、国際力を磨くことで勝ち抜ける。
飯村 現在、インドネシアは非常に注目されています。経済成長率もASEANの中で一番高く、内需がとても大きい。日本企業もタイほどではないですが、約500社程度は進出しているのではないでしょうか。( 日本企業はタイに1675社、インドネシアには692社が進出。週刊東洋経済2011年7月号記事参照)
しかし、投資環境の改善余地はまだ沢山ありますので、駐インドネシア日本大使館の最大の仕事は、日本の民間企業のみなさんと手を組んで、投資しやすい環境を整備するために、インドネシア政府に働きかけていくことです。
特にインフラに関する事が多く、具体例として、インドネシアの首都圏におけるインフラ整備計画のマスタープランを、日本とインドネシアが協力して作成中です。内容は港湾の整備、新空港の建設、MRT( マス・ラビット・トランジット)、つまり都市と近郊を結ぶ高速鉄道整備、道路整備などですが、平成24年の5月か6月頃までにはできるのではないでしょうか。
私もこの度、日本インドネシア協会の副会長に就任しましたので尽力して参ります。

米田 社団でもインドネシアに関するシンポジウムや、物産紹介のフェスティバルなどを企画し、インドネシア訪問団も結成したいと考えています。
さて話をヨーロッパに移しますが、ヨーロッパは今後どう展開するとお考えですか?
飯村 これは難題ですね。オブザーバー的にいうと、アメリカは冷戦後に超大国一極と言われました。
その結果、自らの力を過信したのでしょうか、ブッシュ政権のネオコン政策、イラク進攻、アフガン侵攻、リーマンショックと続き、力のピークが過ぎていったように思われます。
ヨーロッパも冷戦後、ヨーロッパフォリア( ヨーロッパ至上主義の狂騒) がありました。1990年代の中頃に書かれた一人のEU官僚の本に典型的に表れていますが、世界を3つにわけ、第一カテゴリーは、ネイションステイトの枠を超えた、超国家を目指すポストモダンといわれる地域でこれがEU、第二カテゴリーはモダンいわゆる民族国家の枠内にいる中国のような国、第三カテゴリーはカオスで、アフリカなどの途上国であるという枠組み設定をした。私は、随分と傲慢なことを書くものだと思っていたのです。
自分たちは民族国家の枠を乗り越えて、ユーロを作ってうまくいくのだ、自分たちの福音は東のロシアとの国境まで広げられるのだと冷戦終結後の20年やってきたのですが、それが破綻したのです。アメリカの一極主義が破綻したのと同じようにヨーロッパフォリアも破綻したのです。
米田 それはヨーロッパ統合が破綻したということでしょうか。
また、日本はこの先ヨーロッパとどう付き合うべきなのでしょうか。
飯村 必ずしも破綻したというわけではないと思いますが、いろんな道を探していくでしょう。彼らの将来像の背景にあった、一直線に世界の先頭に立って民族国家の枠を超えてやっていくという思いが破綻し、今は自ら歩むべき道を模索しているという状況なのではないでしょうか。
同時に、確かにヨーロッパは苦しんでいますが、オピニオンリーダーであることは間違いありません。G8もヨーロッパの国が多いですし、G20でも半分ぐらい占めています。また引き続き世界の一極であることには変わりありません。ヨーロッパとの関係を維持し、強化していくことが大切です。しかし、ヨーロッパの人たちは、現在の東アジアやアジア太平洋地域の国際関係が再編成されつつあり、変動期にあるということを十分認識していませんし、あまり関心がないというか、内向きになっていると思います。どうしても関心の中心は、中国やインドの経済力になりがちです。
それはアジア蔑視というのではなく、経済的な利益が最優先なのでしょう。いずれにせよ、ヨーロッパとの関係では、まず戦略的な対話が重要だと思います。
米田 ヨーロッパに進出している日系企業は、経済情勢が悪化している中にあっても手堅くビジネスを継続しているとも聞いております。
飯村 日本とヨーロッパの経済関係は重要です。欧州への日本の直接投資は日本企業の技術力とあいまって大変に歓迎されています。
数字をみると、日本の投資先として、EUはアメリカに次ぎ二位です。これは中国よりも上です。海外から日本へ入ってくる投資は、EUが、アメリカを抜いて一位、トップなのです。対EU投資では、日本は米国、スイスに次ぐ三位です。
このようにアメリカよりもEUが上であるようにヨーロッパとの経済関係は大きいのです。これは意外と知られていませんし、実は重要な事です。
貿易の方は、日本の輸出相手国の一位が中国で、EUは二位です。アメリカよりもEUへの輸出が多いのです。しかし、EUからみると、EUにとっての輸出相手国の一位が中国になっているのが問題であり、今後の課題の一つです。
米田 現在、飯村さんは中東和平担当でいらっしゃるわけですが、中東情勢はこれからどういう方向へ向かっていくと思われますか?
飯村 大変動期が始まったばかりです。5年先の中東というのが一体どうなっているのか、確かなことは言えません。もちろん、いろんな可能性が考えられます。第一に、混沌とした状態が続くだろうという考え、第二には、強権的な勢力が台頭してくるという考え、第三には、欧米的な民主主義的な形が考えられ、そして第四に、イスラム的な国ができるという考えです。また、エジプトの選挙ですが、これはイスラム政党が勝つだろうと予測されています。社会、国全体がイスラム化するうえで、イランのような過激なイスラム国家の方向へいくのか、穏健なイスラム国家にいくのか、国によって違ってくるでしょうけど、日本にとって好ましいのはインドネシアやトルコのような形のイスラム国家でしょう。
米田 日本の経済との関連で考えると、どの辺が注目すべき点になるでしょうか
飯村 やはり石油・天然ガス資源ですね。資源が出るのは王政の国、サウジアラビアなどの比較的安定した国々が大半です。特にこれらの国々は日本の教育モデルや職業訓練、そして技術に対する高い期待をもっています。中東では、日本は手を汚してないので敵対感はなく好感を持っており、やはり日本に対する期待感が大きいのです。
米田 最後に、中小企業の方々へのメッセージをお願いします。
飯村 日本は中小企業が優秀で、素晴らしい人材・技術力があります、また、創意工夫により新しいものを作ることもできます。だからこそ海外から期待をもって求められており、中小企業はいわば日本の宝であると言えます。しかし、想定為替レートをどんどん上回っていく円高は、経営リスクを生み、回避の為に生産拠点を海外に移転することによる国内産業の空洞化も懸念される問題ですが、これからの日本の中小企業、その技術力は、海外展開の発想を持ち、グローバル化の時代にあって国際大競争の中で勝ち抜ける≪国際力を磨く≫ことで生き残り、更に輝くのではないでしょうか。
米田 こうした中小企業の海外進出のサポートをしていくことこそが私どもの社団の役割だと考えています。本日は有難う御座いました。

※この対談で表明された見解は個人のものであり、日本政府の公式見解ではありません。