―自治体が消える時、日本も消える-
『国家のグランドデザインを描き直し地方創生を実現しよう』



元総務大臣 野村総合研究所顧問 増田寛也
聞き手/公益社団法人 国際経済交流協会 代表理事 米田建三   
(2015年1月発行World Navi)

「自治体消滅危機」は歴史の所産

米田 増田先生が座長をなさっている日本創成会議が、平成26年5月8日、「ストップ少子化・地方元気戦略」を発表され、戦略の基となる基本認識として2040年の人口推計を示されました。あと四半世紀で現在1800ほどある基礎自治体の内、ほぼ500以上が消滅の可能性に直面するというのですから、極めて大きな衝撃が日本国内に走りました。日本が消えていくということが実感として伝わってきました。元総務大臣 野村総合研究所顧問
 やはりこれが直接の契機になったといっていいと思うのですが、安倍政権が明確に具体的な政策によって日本の変革に走り出そうとしています。
 実は私も地方、長野県の出身です。仕事柄、地方に行くことが多く、またたまに郷里に帰ると、日本は滅んでしまうのではないか、ということをひしひしと実感いたします。みな危機感は持っていますが、世間で語られているのは、某県の何とか村でおばあちゃんたちが知恵を出してこうして成功した、といったたぐいの話です。しかし私はこれじゃ追いつかないと思うのです。
 なぜなら日本の地方の衰退は最近のことではなくて、明治維新以降ただちに始まったと私は考えているからです。欧米に大至急キャッチアップするために、太平洋岸の大都市に地方から人と物と金を集中させました。政治という人為的な営みによって極めて強烈な変化が日本に与えられました。でも考えるとわずか百数十年です。
 ということは時代が変われば逆をやるべきではないか。私は代議士時代も主張していたのですが、地域の人々の創意工夫も当然大事だけど、国家権力をもってやったことに対しては、国家権力が相当な責任をもって、必要な方向転換をすべきではないか。これからの時代に相応しい国家の新しいグランドデザインを、もちろん識者や地方の代表を交えて十分議論した上で創って、それに基づき国家としては北海道にはこう、九州にはこう、とそれぞれの将来像を示していくくらいのことをやるべきではないか。そしてその方向に沿う企業には徹底的な税の優遇策などのインセンティブを与える。
 地方はもう知恵から人から全部大都市に行ってしまっていますから、単に地方に任せます、というだけでは地方創生はとても無理ではないか、と思うのですが、いかがでしょうか。
増田 おっしゃる通り、ここは大仕掛けで国の総力を上げて取り組まないと、地方は滅びてしまうと私も思います。要するに東京一極集中をこのままずっと続けていくと地方が消滅するだけではない、東京自身も消滅し、国家も滅びる。この東京一極集中に代わる、東京も栄えるし地方も栄えるという、まさにおっしゃったグランドデザイン、これをもう一回日本で描き直して、それで新しい時代を創っていかなければならない。
 大きな国土論を議論したのは、田中角栄首相の日本列島改造論、大平正芳首相の田園都市構想、そして竹下登首相のふるさと創生までです。しかし今こそグランドデザインの議論をやるべき節目の時期なのです。安倍晋三首相には安倍地方創生論のような大きな議論を是非やっていただきたい。
 これだけの大事業をやるには政治の安定が不可欠です。そのためにも次期政権は長期政権となって政治を安定させ、グランドデザインを創って、一斉に取り掛かってほしい。代表理事 米田建三 
 明治の初めと比べると人口は一気に3倍の1億人を超えるまでになりました。工業化と栄養状態の改善もあり、地方でもいっぱい子どもを生み、それが労働人口になりました。たとえば私が知事を経験した岩手では、兄弟は6~7人いるのが普通で、しかも三世代同居で、一人だけ農家継げばあとはみんな東京に出て行ったものです。これが東京の労働力になった。しかし今は岩手でも一人っ子が多い。精々二人です。だから今までのような東京一極集中を続けたら、地方は間違いなくさびれていく。
 それに対して、米田先生がおっしゃったように、どこかの町のおじいちゃんおばあちゃんが葉っぱ集めてどうしたらこう儲かった、くらいの話じゃ経済の大きな流れに抗することはできない。地方のいわば「現場の努力」というのは、良い材料、これは資源も人材も含めてですが、それを活用して一生懸命やるのは大切で立派なことですが、しかしそれだけではこの難局は乗り切れない。
 やはり仕組みを変えることが必要です。たとえば東京に余りにも集まっている大きな企業において、あえて地価の高いこの東京に置かなくてもいい部門は少なくないはずです。それを思い切って企業も協力して地方に移す。努力した企業には思い切って税金を軽減する。中央省庁も何々大学校といった研修機関を東京に沢山置いていますが、そういうものも地方に移す。こうやって国家全体で地方に沢山の素晴らしい職場を創る。それでこそ地方の経済が回り、はじめてアベノミクスが全国津々浦々に浸透していくのではないでしょうか。
 アベノミクスはデフレ脱却に確実な道筋をつけてきました。大企業は随分儲かっていますよ。だからこそ地方の中小企業を、全国津々浦々の経済をどうしていくかが課題です。それにはこの人口減少を大きなきっかけとしてもっと地方を元気にする、そういう国づくりに向かっていくべきではないか、と思います。

従来型の地方分散論では対処できない。高学歴に対応できる仕事を地方に移さずして地方創生はない

米田 たいへん共感を覚えます。公的機関はまさに政府が、政治が決断すればすぐにでも進められますね。増田先生は大変重要な指摘をなさったと思います。それはレベルの高い仕事を地方に創ることの重要性です。今まで余り言う人がいませんでした。
 私は昭和22年の生まれですが、まず田舎の青年で多少なりとも向上心のある人間は都会の大学を出て、都会で活躍しようとしました。地元で仕事がない。あっても高度な教育を受けた成果を発揮できる職場がないからですね。だから大都会が膨らむのは当然でもあります。やはり工場誘致のレベル、つまり従来型の産業分散政策ではだめです。本社機能の移転が必要ですね。アメリカもドイツも見事に中小都市にいっぱいありますね。
増田 そうです。世界的な企業は全部そうだと言ってもいいですね。
米田 約140年前に、廃藩置県をやりましたが、今度は廃県置藩をやるくらいの構想力と決断が必要です。封建時代の方が地方の特色があって産業があったともいえます。地方分権も含めてある意味では明治維新の逆をやるような発想でいかないと日本は成り立たないと思います。
 そこで大企業の拠点までも具体的に移すために、最近政府がいわゆる税制にインセンティブを設けるという発表をしました。しかし誘致計画はまず自治体から出させると言いますが、さて出てきますか?
増田 先生のご心配はまさにその通りで、チマチマした難しい色んな計画を作らせたりするとダメです。しかも東京オリンピックもあり今や益々東京に人が増えていますから、本当に大きな政治決断をしなければ手遅れになります。
 地方も高学歴化しています。それは非常に望ましいことなのですが、残念ながら岩手などを見ていると相応しい職場がありません。特に高学歴の女性は本当に地元で職場がないのです。男だと東京の大学へ行っても家業を継ぐために戻ってきたりするんですが、女性はまずそういうことがない。せっかく高校まで多額の県費をつぎ込んで教育してもみんな東京に行って、行きっぱなし。
 地方で有為な人材に働いてもらえる職場をどれだけ創れるか。これが課題です。おっしゃったように、いま製造業の工業団地を作ってみても、工場はみんなアジアに行ってしまったから誰も来ません。痛い目に遭ったのだからそれに学ばなくては。いかに本社の人たちがやっているような仕事を地方にもってこれるか、その勝負です。
元総務大臣 野村総合研究所顧問コマツの坂根相談役は、発祥の地の石川県小松市にどんどん本社機能を戻しています。かつては全世界から集まってやるコマツグループの研修を東京でやっていました。それを小松市でやるようになったら、来る人がみな日本の地方の素晴らしさに直接触れて感激し、しかも近場に工場があるから工場見学もできて、非常に満足度高く帰っていくようです。地元も旅館や飲食が大変に潤うそうで、相乗効果も大きい。しかも地元にこうした部門の仕事の場ができたので、優秀な女性がどんどん入社するようになったと聞きます。もう一つは購買部門。コマツグループで調達する購買部門は、今はIT時代ですから東京になくてもいい。石川県の小松市でやると。
 このように企業もいきなり本社を全部移すと考えず、まず移せるところからやってみる。関係する工場が地方にあればそれを拠点として活かすといった挑戦を是非やってみてほしいと思います。
米田 コマツのような経営者に見識のある企業だったらいいですが、そういう方々が現れるのを待っているとまた百年二百年経ってしまいませんか。政治が責任を持ってどんどん誘導するような政策が必要だし、それを徹底してやるべきだと私は思います。
 代議士時代からの持論だったのですが、税収が増えることだけを言う地方分権ではいけない。ただ地方の収入を増やす、小遣いのばらまきとしての地方分権を言うのを止める。そうではなくて、国のグランドデザインに従って地方へ拠点を移したら10年でも20年でも国税を免除する。国税は減って地方の税収は増えますが、それとセットで地方自治体に権限移譲、実は義務と責任を負ってもらう。それがほんとの地方分権です。人も移り仕事もできて初めて地方も安定的に発展するのではないでしょうか。
増田 おっしゃる通りで、これまでは小遣いのばら撒きでした。しかも遣い道まで決めてね。地方から見ると国が恩着せがましく配っていました。では公共事業が有効かというと、財政が厳しくなると終ってしまう。そこでお小遣いをつかって温泉を掘ったりする。
米田 あちこちに温泉センターのようなものがありますね。全く工夫がないと思います。地方の創意工夫は当然必要なわけですが、体力を根こそぎ地方から絞り取ってしまったのに、いきなり、さあ考えろっていうのは無理があります、共に手を取り合って一緒に考える姿勢が必要でしょう。
増田 そうです。良くハンズオンと言いますが、しかしどこまで実際になされているか。人が本当にいないのです。高齢者ばかりですよ。小学校の統廃合をどうしてもせざるを得ないし、ちょっと経つと成人式も出席できる成人は本当に少なくなっていく。人はなかなか簡単には増やせませんから結局長い年月を、息の長い取り組みをしないといけません。

安易な移民依存の前に日本社会の多様化を目指せ

米田 そこで労働力を急遽補填する必要があるのではないでしょうか。私は、やり方は色々注意し、厳しいチェックをして条件も課しながらですが、外国から労働力をある程度は迎えることも必要だという論者の一人なんですが。この問題どうお考えですか。
増田 ヨーロッパは、フランスや北欧も労働力不足に苦しんで移民を受け入れました。確かに入れ方に課題があるし、どういうふうにしてその人たちに日本に馴染んでもらうかにも色々な問題があります。ただ難しい点ばかりあげつらって壁ばかり作っていたら、これからのグローバル化の時代に生きていけません。日本に溶け込んでいけるよう長い時間をかけて支援していく覚悟が、日本側にも必要です。
 日本が受け入れている外国人はまだ1%強くらいしかない。これは余りにも閉じられすぎています。しかし安い労働力として必要だから移民を、という考え方は良くありません。そもそもアジア諸国は急速に発展していますから、早晩成熟化して日本に労働力を供給できるのは、アフリカ、南米ぐらいとなることも想定しておくべきです。ですからあまり安直に、足りないから、それを補うために人を入れるという意味での移民導入に走らないで、これは日本創成会議の提案として出したことでもありますが、若者が結婚し子どもを産み育てやすい環境づくりのためにすべてに政策を集中すること、女性や高齢者の活用、そして国際的に優秀な海外人材、つまり「高度人材」が集まって活躍できる仕組みつくりなどに取り組むことをまず始めてはどうでしょう。
 つまり単に労働力の数の問題として考えるのではなくて、日本の文化をもっと多様化していく、多様な文化を受け入れる柔軟性をもつ国にしていくことで、海外の優秀な人材が集まるアジアの成長センターとなれるようにもっていく。こうした戦略が必要ではないでしょうか。
米田 まったく同感です。私が内閣府副大臣の時、大都市の若者たちに「もしもう一度人生をやり直すとしたら何がやりたいか」という調査をしました。そしたら農業って答えた人が20万人もいました。
 学校出て会社に入った。満員電車に乗って何年かしているうちに、社長になるのは無理だと分かってくる。なんでこんな人生になったんだろう、国へ帰ろうかな、と思う。あるいは農家の出身者でなくとも、自然を相手に暮らしたいと思う人もいっぱいいるのです。
 それなのになぜ日本の農業は衰退しているのか。ここにも今おっしゃったことと同じ日本の一種の閉鎖性、どうしても地縁血縁で固まりやすい風土や、新規就農希望者を阻む様々なバリアーが原因になっていると思います。これを直さないと若者は来ませんよ。
 それと農業の企業化です。農政改革、農協改革の問題にもつながりますが、企業化して、5年間は畑を耕す生産部にいて、次は営業部で東京へ行ってスーツ着て、昔のサラリーマン時代のように営業して歩く、といった農業企業を可能にしていく。
増田 企業化するとできますね。休みもちゃんと取れるし。家族経営じゃ到底無理ですから。

人材受け入れのための先行事例

米田 先程議論した人材の受け入れについてですが、大変興味深い実例があります。私は平成26年2月まで日本航空学園という航空技術者を養成する学園の理事をやっていました。ここには航空技術者養成にあたる専門教育部門だけでなく高等部もあるのです。そこは本国で中学を卒業した段階で外国人を留学させます。日本の制度では留学に当たって一定水準以上の日本語能力が必要ですね。
増田 入学のときうるさいんです。
米田 ところが高校だとその基準が適用されないのです。そもそもたとえ日本語ができなくても、子どもで呑み込みが良いうえ、全寮制だからすぐ上手くなります。そうして高等部卒業させると、後は日本の普通の専門学校、福祉学校、看護師学校にどんどん進学できる。そういう若者に対しては、日本での就職もOKにすればいいと思います。ところが日本での就職はなかなか難しいのが現状です。
 つまり子どものころから留学させて専門学校出れば日本でどんどん就職できるような仕組みは有効だと思いますが、それを阻んでいる規制がある。そういう困った規制を全部チェックし直して、風通しを良くすることが私はとても大事だと思います。
増田 勿体ないですね。まだまだ見直さなきゃならないところが、いっぱいありますね。

安定政権のもとで人口という根本問題に正面から取り組まなければ国が滅びる

米田 ご主張のなかで大変ユニークかつ刺激的だったのが、地方が滅びるということは即ち東京が滅びることだという御指摘です。でも私はなるほどと思いました。若者が集中する東京が一番子育てしにくくて、独身者を大量生産しています。
増田 豊島区について言うと、あそこが一番若い人たちの減りが激しいのです。今までは埼玉から沢山の若者がきていました。しかしその埼玉が急激な人口減で供給ができなくなってしまうんです。加えて豊島区は特に池袋周辺にワンルームマンションが非常に多い。そのためいざ結婚しようとすると、みんな板橋区や練馬区に移るんです。だからなおさら若い人が残りません。それで再生産力がなくなって将来一挙に減ることになります。まだ現状では数字として表れていないところも、丁寧にみてみると将来推計はこうですから、危機的というのは決して大げさな表現ではありません。
米田 日本国土の大改造くらいの大きな戦略を立てる。そしてフランスが全ていいわけではないが、フランス型を参考にしながら子育てのしやすいきめ細かい政策を立てて実行していく。今までなんとなく言われながらもやってこなかったこうした取り組みを一挙に全部やらないと、いよいよ日本が滅びるという状況ではないか、と思います。
増田 おっしゃる通りです。今まで人口といった根本的な問題に真正面から向き合わずに避けてきた、ということは認めざるを得ないのではないでしょうか。しかし政治が安定しなかったことも取り組みが後手になった理由の一つでしょう。こういう大事業に取り組むには政治の安定が不可欠です。ですからこの時期を逃してはいけないと思うのです。
米田 安定政権が、多少不協和音が起きても責任を持って政策を断行するというような形でいかないとだめですね。最後に、今の地方で頑張っている人たちに増田先生が最もおっしゃりたいことをお願いします。

地方で活躍している人材が日本を変える

増田 今までは地方より東京が上だという価値観が支配していました。これを変えられるのは、今地方で頑張っている人たちです。必ずそれは変わる。何もヨーロッパが全部お手本ではないのですが、ヨーロッパの現状は大都市の人口が減って、中都市、小都市に人口が流れている。そういうところでちゃんとビジネスができる環境になっています。さらに生活の豊かさをどこで得ていくのかを考えると、大都市では無理だという認識です。大都市は生活の豊かさを殺してビジネスに特化しているからですね。だから私はもうちょっとすると地方に大きく光が当たる時代が必ず来る、今地方で頑張っている若い人たちが中心になる、主役になる世界がきっと生まれると考えています。政治の力で巨大な一極集中を変える流れを作ると同時に、今地方で頑張っている人たちを是非主役にして日本全体の価値観を変える。そういうところまでやっていきたい。
米田 地方のみなさん頑張れ、知恵を出せっていうだけではなくて、そういう人たちと中央がしっかり連携し、呼吸を合わせてやり遂げるということですね。本日はありがとうございました。
※本対談は、平成26年12月4日に行われた。
(文責編集部)